土田浩翔オフィシャルウェブサイト

土田浩翔オフィシャルウェブサイト 麻雀の宇宙へようこそ

新着情報

ツイッター

2021年7月1日(木)~卓上から宇宙をみる~㊶

~卓上から宇宙をみる~㊶

〔永世最高位を偲んで〕

〈ぐぅ~っ、ぐぅ~っ〉 腹の底からふり絞るような呻き声をあげながら、一摸一打している打ち手が上家に。
大丈夫なのか?
いや、もうそんなレベルではないはず。
いつブッ倒れてもおかしくないくらい、その疲れと痛みは極限状態まできている。

中断してもいいのに……、私は何度もそう言おうと上家の打ち手を見た。
己の手牌を見ているのか、己の河を見ているのか、視点の定まらないうつろな眼をしていたのだが、ほんの一瞬、キッと私を睨み返すその眼にだじろいでしまった。
そういえば……、似たような瞬間が過去にもあった。

安藤満さんがそうだった。

担当医から、1秒でも早く入院するように!と命ぜられていたにもかかわらず、『このタイトルを獲らないと、生きている意味が無いんだ』と、その命と引き換えに《天王位》の座に就いた安藤さん。

余命幾ばくもない身を卓上に投げうてる打ち手が、この世に何人いるだろうか?

ただでさえ長く厳しい闘いになるタイトル戦のファイナル。
そこに身を投じるわけだから、代償はとてつもなく大きいものになる。
それでも《打つ》ふたり。
《壮絶》……と言葉にすることは簡単であるが、実際ふたりの最後の闘いに同席した身として、《死》を受け入れる闘いの壮絶さは、筆舌に尽くし難いの一語である。

吐く息、地鳴りのような呻き声、もがれてしまいそうな腕の振り、それぞれが対局者の心を震わせ打ち砕いていく。
〈同情〉〈憐憫〉〈哀傷〉、そんな感情を1ミリも寄せつけない《神の力》と呼んでもよいくらいの〈制圧力〉が卓上を支配していったのである。

「第6回モンド名人戦決勝最終戦」、飯田永世最高位最後の雄姿が見られるその1戦で、《超一流プロ》の神髄を目にすることができます。
とくに、最終戦の東2局~南1局までの飯田永世最高位の怒涛の進撃と、南2局以降の、名人戦史に残る熱闘をご覧いただくことができれば嬉しい限りです。

2011年のある夏の日、順調に回復されていたかに思えた飯田さんに電話をかけたとき、『ツッチー、あんまりよくないんだよ、もしかしたら駄目かもしれない』と話され、私は目の前が真っ暗になり、すぐに返せる言葉が見つからず、しばらく沈黙が続いた。
すると『ツッチー、また名人戦でやれるといいね』と、今度は屈託のない明るい声で話してくれた飯田さん。
いつも気遣いの人だった飯田さん。

そして、名人戦の収録が終わり、家路につこうとしたそのとき『ツッチー、ありがとう』と、少しかすれ気味の声で、最高の笑顔を添えて言ってくれた飯田さん。

天国での安藤さんとの対局を心ゆくまで楽しんでください。
そし安らかにお眠りください。

※本文は東京麻雀アカデミー(雀友俱楽部)テキストより


≫卓上から宇宙をみる一覧