2021年8月15日(日)~卓上から宇宙をみる~㊹
~卓上から宇宙をみる~㊹
〔アノマリー〕
南1局、西家は次の手牌から を切りました。
ドラ
9巡目のことでした。
そして次巡ツモってきた を横に曲げてリーチをかけたのです。
気でも狂ってしまったのか…
いや、そうではありません。
を切った男は、勝率七割を超えるツワモノでした。
ワザと負ける?
いや、それも違います。
「マージャンの打ち方を見せてやるから、俺のうしろに座れ!」と言った男がそんなおふざけをするはずがありません。
3巡後、トップ目に立っているトイメンがおもむろに を打ってきました。
トイメンは、この手牌に4枚目の を引き、自信満々に を解き放ったのでした。
この劇画のようなワンシーンは、いまから30年余り昔、私がメンバーをしていたときの実話です。
南1局を迎えたとき、西家に座していたその男の持ち点は、たったの4千点でした。
2万5千点持ちのマージャンで、トイメンは5万点を超える断トツ状態。
この をフリ込んだところで、痛くも痒くもないゴーニーである。
いったい何の意味がこのアガりにあるのか、ヒヨッ子の私にはさっぱりわかりませんでした。
次局、6巡目の男の手牌です。
ドラ
ここに をツモると、何を思ったか、男はドラの をスッと河に置いたのです。
そして次巡、2枚切れの を引くと、今度は を河に置きました。
チートイツのイーシャンテン手牌ではありますが、普通はツモ で を打って
となるか を1枚外して
とするか、 を1枚外して
と構えるはずです。
2枚切れの を手元に置いた次巡、私は我が眼を疑いました。
男は再び を引いてきて、 を横に曲げてリーチを打っていたのです。
なんだこの打ち方は?
そして驚くなかれ、男は一発で をツモり上げ、裏ドラに を乗せてハネ満をモノにしていたのです。
噓だろ!と誰もが思うはず。
よくそんな荒唐無稽な作り話を書けるものだなと、思われても仕方ありません。
でも……《事実は小説より奇》なのでした。
南3局の親番を迎えたとき、男の持ち点は2万点を超え、トップ目のトイメンは4万点チョイ超えで、その差は2万点近くまで縮まっていました。
賢明な方はすでにエンディングが読めているはずなので、敢えてこの先のストーリーは自重させていただきますが、ゲームが終わった後、男はボソリと私にこう言いました。
「運が落ちてるときはナァ、タンキ待ちでしか上げていけねぇんだよ。な、わかっただろ」
合理的に説明がつかない現象を〔アノマリー〕といいます。
でも〔アノマリー〕なくしてマージャンというゲームの真理に近づけないことも、また事実なのです。
※本文は東京麻雀アカデミー(雀友俱楽部)テキストより
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